The one of one






 
 
 四月も数日が過ぎたとある日の早朝。


「お花見しよう!」
 王座の間に姿を現すなり宣言したのは沙梨菜である。彼女は食事も途中に固まる面々を伸ばした両手で制し、歩みよりがてらつらつらと言葉を並べた。
「反論は受け付けないよ?沙梨菜、もう決めたんだもん!みんなでのんびりお花見するんだもん!毎年あんなに綺麗に咲いてるお花、見ないなんて損だよ!やるなら今だよ今しかないよぅ沢也ちゃんと、みんなと一緒にみたぁぁぁぁあ…ひぎゅ」
 次第に拳と化した両手を上下にシェイクしていた彼女の鼻が、沢也の守備範囲内に入ると共に摘ままれる。彼の逆の手に呼び出されたシルバーの輝きを見て、蒼が朗らかに宥めにかかった。
「沢也くん、目玉クリップは流石に酷いと思います」
「なら洗濯ばさみ持ってこい今すぐ」
「良いじゃない、お花見。わたしは賛成ー♪」
「てめえは酒のみたいだけだろ!」
「オレもっ…」
「大食い馬鹿は黙ってろ!」
 続けて有理子、義希と順に黙らせ沙梨菜を解放すると、静まった場には沢也の小さなため息だけが落ちる。
 しかしその落ち着きはほんの一瞬で無に返された。
「だってだって。ここ数年みんなして引き籠りっぱなしじゃん?ここんとこいい天気なのにそれでいいのかなって考えたらさ、居ても立ってもいられなくなって…」
「だからって…」
「いいじゃないですか。沢也くん」
 再び騒ぎだした沙梨菜を黙らせようとする彼を、蒼の穏やかな声が止める。振り向いた沢也の顰めっ面と、脇に置かれた書類の山とを順に見据えてから。蒼はくるりと人差し指を回した。
「こんな小さな事でそんな顔するくらいです。あなたにも息抜きが必要だと思いますよ?ですからほら、数時間だけ。なんとかなりませんか?」
「こうして議論する時間をそれに当てれば済む話よ。違う?」
 蒼の指摘と、コーヒーを注ぐ片手間割り込んだ有理子の見解にため息を浴びせた沢也は、苛立ちを手の甲で追い払ってはいつものように説明する。
「時間の問題だけじゃない。此処を開けるわけにはいかねえから、誰かしら残らねえと…」
「お任せを」
「ご心配なく。私達は私達でお花見しますから」
 語尾に被せるようにして挙手をしたのは亮と八雲だ。既に朝食を済ませ、部屋の隅で仕事をしていた彼等に沙梨菜の輝かしい眼差しが注がれる。そしてそれはそのまま沢也を振り向いた。
「ね?沢也ちゃん!」
 キラキラを受けた彼は冷めきった眼差しを彼女に注ぐ。しかし周りは既に全て彼の敵であった。
「いーじゃん!たまにはいつものメンバーでさぁ」
「たまにも糞も、いつも顔会わせてんだろ?定例会で」
「細かいこと気にしてると禿げるわよー?」
「心配しなくてもどのみち禿げる。ストレスで」
「そんな沢也ちゃんも…アリです!アリアリ!」
「今すぐ黙らなけりゃ手動で禿げさせる」
 義希、有理子、沙梨菜と。やはり順に黙らせた沢也が諦めてため息を吐き出すと、追い討ちをかけるかのように沙梨菜が挙手をする。
「にゃら、黙る代わりに報告行ってくる!」
「まだ日程も決まってねえのにか?」
 怒りを通り越して呆れた声が、駆け出そうとする彼女の動きを止めた。

 その後、せめてもの抵抗として話し合いを放棄した沢也ではあったが、他の四人が滞りなく概要をまとめ上げる。
 5日後開催となった花見の日程は、程なくしていつものメンバーに伝えられた。


 沙梨菜から話を聞いた海羽が、城の買い出しがてら下町の八百屋を訪れる。
「そうですか、お花見に」
「はい。折角だから桜餅作ろうと思って…あと、簡単にお弁当を」
 店先で簡単な事情を聞いた八百屋の青年は、悩む海羽を微笑まし気に見据えては羨ましそうに言った。
「桜餅なら和食ですか?いいなぁ。いなり寿司とか、ちらし寿司とかも華やかで素敵ですよね」
「それもいいですね。うーん…迷うなぁ…」
 色とりどりの野菜たちとにらめっこしながら、当日の献立を思案する彼女の顔が何処か楽しげで。思わず凝視してしまった彼の視線に、時間差で彼女が反応する。
「あ、ごめんなさい。店頭でこんな…」
「構いませんよ。ゆっくり見ていって下さい」
 慌てて飛び退かんとする海羽を、青年が慌てて止めにかかる…そんな様子を後ろから眺めていた人物に、二人が同時に気が付いた。
「くれあ」
 海羽が名を呼ぶと、彼女は曖昧に微笑んで腕の中の一実を抱え直す。
「珍しいのね。一人で買い物なんて」
「ここのところ午前中は平和なんだ」
「意外ね。まだ続いてるの?」
「有り難いことにな」
 小太郎から秀事情を聞いていたのだろう。目を丸くするくれあから一実を受け取った海羽は、小さく肩を竦めて見せた。
「お知り合いですか?」
 やり取りが一段落すると、同じく目を丸くしていた八百屋の青年が控え目に問い掛ける。彼の微笑を真似するように、海羽も僅かに微笑んだ。
「はい。お友達で…」
「あらあら。友達なんて温いものじゃないでしょう?」
「そっか、そうだな」
 意味深な目配せと和やかな笑い声に釣られたように、青年も柔らかい笑顔を強めた。
 その後、海羽はくれあと相談しながら当日の献立を定めていく。時折青年のおすすめ等も交えながら、幾つかの野菜の購入が決定したのが十数分後のこと。
「ではまたお届けにあがります」
「いえ、今日は少ないから…」
「これから桜餅の材料を仕入れに行かれるんでしょう?いつも贔屓にして貰ってますから、お任せ下さい」
 気遣いと満面の笑みに負けて、頷いた海羽は伝票とくれあを連れて店を後にする。
「くれあは買わなくて良かったのか?」
「今日は向こうの手芸店に用があっただけ」
 言いながら糸や布が入った袋を掲げる彼女に、海羽の納得の相槌が注がれた。
 くれあは海羽の朗らかな横顔を横目に、彼女の手の中の伝票を指し示す。
「ところであのおにーさんとは、どんな関係なのかしら?」
「おにーさん…?」
「八百屋のよ。随分親しそうだったじゃない」
「ああ、良くお城の買い足しでお世話になってるから…」
 ふわふわと、半端に言葉を切って前に直った海羽を横から覗き込み、くれあは語気を強めて繰り返した。
「から?」
「へ?」
「…それだけ?」
「…?うん、それだけだけど…」
 すっとんきょうな声に問い直すと、不思議そうな瞬きが返される。
「そう、ならまぁ、いいんだけど…」
 呟いたくれあは、こちらもこちらでかなりの鈍感なのかもしれないと再認識しながら、もやもやを晴らせないまま海羽の買い出しに付き合う事になる。
 海羽に限って、移り気するようなことはまずないだろうと思いながら。それでも心配になってしまうのは、八百屋の彼が余りにも好青年だからだろうか?
 いや、それよりも。海羽が知らない人間と楽しそうにしているのを見たのが、初めてだったからかもしれない。加えて知らないのだ。
 倫祐と居るときの海羽が、どんな風なのかを。
「楽しみだわね」
「うん?」
「お花見。倫くんも来るんでしょう?」
「へ?えと、あの…ど、どうかな…?」
 不意な呟きと、不意な名指しに慌てる彼女の反応に酷く安心したくれあは、笑いながら一実を回収して肩を竦める。
「大丈夫。小太郎が引き摺ってでも連れてくるから」


 くれあのその宣言は強ち間違いではなく。
 義希の勧誘を渋る倫祐をごり押しで納得させたのは、他でもない小太郎であった。
「逃げるなよ」とか「こなけりゃ当日迎えに行くからな」だとかしつこく言われては、面倒くさがりな倫祐は自分から出向く他ないのである。


 よって当日は計画通り、9人は久々に青空の下で顔を合わせた。


 城に向かって右手にある大きな桜の木の下で、ピクニックシートを広げて座る彼等の様子を見守るのは、門番を初めとした城の職員たちである。
 普通なら有り得ぬその光景にヒヤヒヤしながらも、楽しげな空気に思わず顔を綻ばせる人々の心境を他所に、宴はのんびり気味の昼時前に開催された。
 城へ向かう道を正面にすると、丁度桜の木と海に続く崖が背後に来る。右手には城壁が、左手には草原が広がるだけの見晴らしが良い状態で、例え襲撃が来ようとも特別問題はないだろう。
 そう悠長に構える蒼や沢也の脇には、持ち出しても問題ないであろう仕事がこっそり置かれていたが、結局開始と同時に有理子や沙梨菜に取り上げられて、代わりに箸と取り皿を持たされた。困り顔の彼等の前には背の低いちゃぶ台が置かれ、次々と食材が並べられていく。
 花形に細工がされた蓮根やニンジンにさやえんどう、錦糸玉子とデンブが色鮮やかなちらし寿司。肉食系男女の為の甘辛ダレのミートボール。わざわざポットに詰められた蛤のお吸い物。その他昨日の残り物から試作品まで、これでもかと詰め込まれた内容に呆然とする一部を他所に。
「よっしゃ!任しとけー?」
「ふん、おれ様が全部平らげてやるぜぃ!」
「沙梨菜も準備万端だよ?なんたって朝御飯もちゃんと食べてきたからね!」
 と、花より団子な面々がそれぞれに箸を構えては意気込みを告げた。
 その傍らでは準備を終えた有理子が花よりアルコールの体勢に入っては酒瓶を傾ける。しかも準備が良いことに、海羽特製のおつまみ完備だ。
 彼女はぐいっと一杯冷酒を飲み干した後、当然のように沢也に酒を振る。沢也は隣の沙梨菜と、蒼を挟んで逆隣の有理子との間で板挟みになりながら、それでもなお悪足掻きをした。
 首を振って断る彼に、有理子の満面の笑みが問う。
「わたしの酒が飲めないって言うの?」
「午後も仕事があんのに飲んでられるか!っかお前も仕事だろう」
「わたしそんなに弱くないもんー。来客もないしー?あんただって弱くはないんだから、少しくらい問題ないない!はい、飲んだ飲んだ!」
「ふざけんな。そんな状態で仕事してみろ?またゴシップ紙の餌食だぞ。室内ならともかくこんな目立つ場所で堂々と酒なんて飲めるか」
「あらあら、何を書かれても動じないんだと思ってたけど…」
「流石にそんな事実を書かれたら信用問題に繋がるだろ。分かってて言ってんだから質悪い…」
「まあまあ、お二人とも」
 割って入ったのは挟まれた状態の蒼であった。彼はいつもの笑顔を崩さずに、ポケットルビーから甘酒を取り出して沢也に持たせる。
「これなら問題ないかと」
「酒は酒だしな」
 早速同意した沢也が悪戯に笑うと、有理子も不服そうながらに納得して肩を竦めた。
 その間にも順調に減らされる食料達を救出しては、まだ箸を付けていない数人に回していた海羽がふうっと息を吐く。開始からスタートダッシュをかけていた小太郎が箸を休めたのが、丁度それと同時だった。
 彼はくれあから一実を預かり靴を履くと、くれあに目配せして木の裏側へと回る。
「よう」
 適当に声をかければ、首を回した倫祐の手元から携帯灰皿が消えた。小太郎は相変わらず返事もしない彼の隣に座って、言い訳のように口にする。
「最近絡んでねえからな。子守りついでに話きかせろや」
 手を伸ばす一実に釣られるまま振り向くと、倫祐が首肯だけで回答を終わらせたところだった。
「…どうなんだよ」
 苛立たしげに訊ねる小太郎に返されるのは、当たり前に頷きだけ。暫く待ってみても彼が口を開く様子はなく。
「なんだっつの」
 堪えきれず、前のめり気味に追求すると、倫祐は差し出された一実の指先を摘まみながら短く言った。
「心配ない」
 小さくせっせっせをする俯き気味の彼を正面から見据え、瞳を細めた小太郎の口からため息のような声が零れる。
「…正直、信じられねえよ」
 続けて一実と倫祐との意味のないやり取りを無意識に眺めていた彼は、ハッとするなり照れ隠しに転じた。
「いや、別にお前がそれでいいならいいっちゃいいんだが…だから、そうじゃなくて…!」
「小太郎は気にしてるのよ。昔の事」
 小太郎とは反対側から顔を覗かせたくれあの言葉に、振り向いた二人が対照的な表情を注ぐ。
「だからあなた達には、並以上に幸せになって欲しいの。分かるかしら?」
 座りながら解説を続ける彼女に向けて、倫祐の瞬きと傾いた首が疑問を注いだ。その背後から小太郎が首を出しては眉根を寄せる。
「何が分かんねえんだよ。これ以上分かりやすい説明もねえだろうが」
「並って?」
 不意に振り向き口を開いた倫祐を前に、夫婦がかちりと固まった。
 唯一止まらなかった一実に指先を伸ばした彼が、彼女のほっぺに触れるか触れないかと言う頃。
「んあ?」
「どれくらいかってこと?」
 同時に活動を再開した二人から疑問符がもたらされる。倫祐は当然のようにまた頷いた。
 すると今度は同じタイミングで唸り始めた二人を、小太郎の腕の中で一実も真似る。
「それは確かに、難しい問題だわね」
「難くも何ともない!お前にはまず、相手が…」
「お待たせ、あの、くれあ。お茶…入ったんだけど…」
 問答の最中に割り込んだのは、海羽の穏やかな声だった。三人が揃って振り向くので、そわそわと瞳を泳がせる彼女の肩を、立ち上がったくれあが掴む。
「丁度良かった」
「え?」
「座りなさいな。ほら、ここに」
 そう言ってトレーから二つのお茶を受け取ると、くれあは海羽を自分が座っていた場所に座らせた。
「あの…」
「お茶、ありがとう」
「お前さっきっから動きっぱなしだろ?そこで少し休めし」
「あらあら、小太郎からこんな優しい言葉が出るなんて。ねえ海羽、感慨深いでしょう?従わない理由があって?」
「うっせえ!ほれ、桜餅!回ってきたぞこら!」
「それじゃあ、ごゆっくりー」
 反対側から差し出された桜餅を受け取った倫祐と、纏まらない言葉をポロポロと溢す海羽と。二人は彼と彼女とをそれぞれに見送って、次に横目に視線を合わせる。
 背後からは義希の鼻唄や有理子のコール、沢也と沙梨菜の痴話喧嘩などが頻りに聞こえてきていた。何の変わりもない筈なのに、静かすぎるその場所だけは妙に空気が重くなったように思える。
 倫祐が重箱の中から桜餅を一つ口に運んだことで、海羽の時間も動き出した。手にしたままだったトレーを二人の間に置き、手持ち無沙汰のままに湯飲みを手にする。
 目の前には青を背景にピンクのそよ風が吹いていた。
 ただ穏やかで、見渡す限り広がる空がとても眩しい。見上げると、空に向かって伸びる木の枝。無数に咲き誇る桜の花。
 美しさと愛らしさを持ち合わせるその色は何処か儚くて。桜を見るたび、彼女はいつも切なさを胸に抱く。
 これといって想い出があるわけではないのに、どうしてそんな気持ちになるのか。それは恐らく、散り行くその姿が余りにも美しいから。それでいて、その美が存在するのは一年のうちほんの一瞬だけ。
 だからこそ価値があり、美しいと感じる事が出来るのだと言うことも理解している筈なのに。
 ずっと見ていたいと思うのは、やはり欲張りなのだろうか?
 そう思うと同時に、一見全く似ていない隣の人物と桜とを重ね合わせてしまった海羽は、手元のお茶に視線を落とす。その間にも消費され続ける桜餅は、着々と数が減っていた。
 海羽は無心で桜餅を食べているであろう倫祐の様子を盗み見る。すると柔らかな風が吹いて頭上の桜を僅かに散らした。
 揺れる枝枝から舞い落ちる花弁を見上げていると、そのうちの一枚が倫祐の頭に付着する。
 黒に浮かぶ淡い光のように、花びらは倫祐の髪の毛に留まっている。その姿を目に焼き付ける様に、海羽は思わず彼を見詰めてしまった。
 気配を察知したのだろう。倫祐は、微かに振り向くと同時に首を傾げた。当然、海羽は慌てることになる。
「あ、あのね?」
 顔が赤くなるのを自覚しながら、海羽はそっと手を伸ばす。
 倫祐は半分になった桜餅片手に動きを止め、海羽の動きが収まるのを待った。
 膝を立てて花弁を救出した彼女が、彼にそれを提示して元の位置に戻ると。彼は頷くように頭を下げて、海の方へと視線を流す。
 海羽は手の中から今にも飛んでいってしまいそうな小さなピンクと、未だ風に巻かれる沢山のピンクとを静かに見比べた。
 髪も、服も黒い倫祐に花弁が貼りつけば直ぐに分かる。だけど見る限り、他にくっついているものはないようだ。
 こんなに沢山の花が咲いているのに。この中でたった一片だけが彼の元に留まった。
 もしも、それをヒトに例えるとするならば。
 自分も、そうなれたら良いと。
 切に願いながら、彼女はそっと、ポケットに花びらを収める。
 隣に座る彼に気付かれないように。
 数秒かけて無事事を成した海羽は、緊張の中から抜け出して息を付き、片手に持ったままだった湯飲みを傾けた。
 二人の間に流れる空気は静かなまま。しかし先程とは何かが違う。
 違和感の正体に気付いた彼女は、不意に動いた倫祐に倣うようにして背後を振り向いた。
「てめえ…桜餅ばっか食ってんじゃねえし!」
「あなたも、何で間にお茶を置くのかしら?意味がわからないわ」
 覗き見を悪びれもせずに言い放った小太郎とくれあの下からは、蜘蛛の子を散らすように様々な色が逃げて行く。
「いい雰囲気なんじゃん?」
「いくら雰囲気が良くても、いつまでもあのままじゃ…」
「いっそサンドイッチしちゃいたいくらいだよね…」
 ひそひそと聞こえるのは義希と有理子、加えて沙梨菜のぼやきのようなもの。
「放っとけばいいものを…」
「そうですね。変に掻き回すのも失礼ですし」
 沢也と蒼の呟きの後、一実の喃語が同意したように続いた。
 体半分振り向いたまま固まってしまった海羽の顔は赤く、今にも爆発しそうな勢いだが、反対側で既に元に直った倫祐は、ただただ無表情に煙草をくわえては残った桜餅を小太郎に受け渡す。
「あらあら、真っ赤になっちゃって…」
「そう言う問題じゃねぇえぇえし!」
 正反対な二人の反応に対する夫婦のお言葉が見事に重なった。

 その後合流してはゆっくりと。早めの昼食を終えた9人は、僅か数時間の宴会の余韻を楽しむ間もなく、再び忙しない日常へと戻っていく。


 まだ八分咲きだった桜がすっかり散ってしまったのは、それから一週間と少しが過ぎてからの事だった。





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