「残留思念」


 そこには何もなかった。

 何もない、と言えば嘘になるかもしれない。
 だけど、僕に言わせれば…何もないのと同じだった。

 彼処まで行けばきっと、何か見つかるかもしれないと。
 遠い空の彼方に想いを馳せた、昔の自分を呪うしかない。

 今となってはそう。
 それくらいしか、僕に出来ることなんて。

 だって今の僕は、僕であって僕でない。入れ物が朽ちて、枯れ果てても。
 どうして此処に居られるのだろうって…そんなことばかりを考えてるよ。


 たゆたうのは自分の体だったもの。
 そこに存在する無数の岩は、まるでそれを避けるかのように浮いている。
 近くで見ると迫力はあるけど、結局はただの岩でしかない。
 手の届かない場所で見るからこそ、美しいと感じることが出来るんだ。
 そんなこと、今になって理解しても遅いのに。
 僕にはもう帰る術がないから。

 ねえ、誰か答えてよ。

 まだ生きていますか?
 あなたはまだ、生きていますか?

 僕はまだ生きていますか?
 それとも死んでいますか?

 僕の声は届きますか?
 誰かに届いていますか?

 こうして念じることしか叶わぬ僕は。
 意識だけの存在として、宇宙の片隅をさまよう僕は。


 果たして…何なのだろうか?


 聞こえますか?
 何処かの星の何処かの誰か。



 此処には何も、ありませんでした。












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