文章修行家さんに40の短文描写お題




告白

橙色の空の下
遠くでは生徒達の笑い声
手紙を手に待つ
駆け寄る少女は空と同じ色の頬をして
僕に想いを伝える
チャイムが響く中
僕も空色に染まる





空が泣く中で曖昧に笑う
雨に涙を隠すように
静かに告げるその言葉に
秘められた優しさを感じながら
僕は彼女に背を向ける
もう逢いたくもないと



卒業

鏡の前に立つあたしを
向こう岸で見つめる自分
それは大きな一歩
振り向かずに歩いて行ければ一人前
床に散らばった前髪に一言告げる
サヨウナラ





てとてとてと
緑色の海を泳ぐ
あっちには何がある?
こっちは?
輝く目に映る好奇心
今は独りでも大丈夫
振り向けばそこに
笑顔で待つ人がいるから



学ぶ

やらずに時が過ぎて感じる後悔と、やってみて初めて感じる後悔と…。
どちらが正しいとかそういうのは解らないけど。
今はひたすら後悔の嵐。



電車

それぞれが自分の世界に没頭する不思議な世界
響くアナウンスすら無機質で耳障りな走行音と共に消えていく
僕は只、思考を音楽に乗せて



ペット

自分にないものを持つ彼を側に置くことで安らぎを得る
「恨んでるんだろう?」
「そんなことないさ。君も僕に無いものを持っているから」





煙草を吸うときに目を瞑る
それは然り気無い仕草
一瞬だけ見えるその表情に軽く口づけする
すると君は軽く微笑んで
またしたな、と僕を小突くんだ



おとな

その手は大きかった
瞳が寂しそうに笑った
落ち着いた声で呟く唇は少し震えていた
泣けないの?
それが大人なら、僕は大人になりたくない



食事

食べてしまったら何も残らない
そう思っていた
でも君は今でも僕の中で生き続けて
時折僕を支配するね
あの時僕が見せた一瞬の隙が
君の栄養源





紙の集合体
そして文字の集合体
ページを捲る度に進む世界が
僕に変化をもたらす
悠久の時があれば
僕はすべての世界の色を知ることが出来るのに





空を飛ぶ
血のように染まる空を
何もかも無くなったこの世界で
蒼空を想い描きながら
ハッと目を覚ます
僕が呪う蒼空が
窓の向こうで笑っていた



女と女

あ、また笑ってる
廊下ですれ違う彼女を瞳が追いかける
私と正反対のあの子
いつも輝いて見えるあの子
妬ましい煩わしい
そう思う自分さえ大嫌い



手紙

差出人不明
呪いの言葉が綴られた紙きれ
一体誰がこんな悪戯を…
「かな、お兄ちゃんが…」
母の泣き声と呪いの言葉が響いた
「地獄で待ってる」



信仰

貴方の為なら何だってできる
星降る夜空に呟いた
瞼に浮かぶ貴方の真っ黒な瞳
それに似たこの街に吸い込まれてしまおう
来世でまた逢いましょう



遊び

「ワンパターンだよな」
カラオケから出た途端君が呟いた
僕も常々思っていた事だ
「子供の頃はもっと色々したのにな」
「大人ってつまんないな」



初体験

風の中に放り込まれた感じ
恐怖が快楽に変化する瞬間
心臓がいつになく小さくなった
血の満ちる脳が
海は下にあると呟いた
「2度とやるもんか」



仕事

誰かの為に、と頑張る僕たち
でも実際は自分の為に
生きて行くため偽る事を
当たり前にしている人々
仕事とはそういうもの
人間とはそういうもの



化粧

誰にも見られないように
分厚く塗装する作業は毎日一時間を超える
最後に頬にピンクをのせて
美しい作品が鏡に映る
満足だ
「今日も良く偽れた」



怒り

勝手に体が震えた
口は固く閉ざされて
紡ぐ言葉が脳内で響く

残酷な現実
その全てを壊したい

そう思った時

誰か俺を止めてくれ
少しの理性が呟いた



神秘

透明の揺らぎ
光沢の緑
空色の光

虹色の羽が角に止まる
真紅の瞳が瞬いて
真っ白な毛並みを雫が伝う
「欠伸だよ」
彼の涙が
泉の水を葡萄酒に変えた





夕刻に紅茶を飲むと夕焼けが色濃くなる
日本酒に月を映すと棚からぼた餅
じゃあお昼にココアを飲むと?
その日は帰れなくなるって噂だよ



彼と彼女

白と黒のコントラストが美しい
彼が白で彼女が黒
彼女が白で彼が黒
外見も性格も正反対な二人は今日も仲良く喧嘩中
恋の傍観者である僕の独り言



悲しみ

それを色で表すと何色になりますか?
僕にとって、それは深い赤です
何故かって?
二度と会えないあの子が唯一嫌いだった
僕の大好きな色だから





辛いことがあるといつも想う
今ココにあるこれが
自分の命だと
幸せなことがあると忘れてしまう
今ココにあるのが
貴方の命だと
平凡が生との離別





駆け巡る記憶
身体中の痛み
全てが無に帰す
何もない世界
でも僕は生き続ける
皆の記憶の片隅で
だから忘れないで
僕のことを
そう、勿忘草に願った



芝居

自分ではない誰かになりきる
その時本当の自分は何処へ行く?
俺は何時か忘れてしまうのではないか
本当の自分を
そんな台詞を呟く俺は
今何処に





魂の入れ物
己を象徴する物
着飾るのは愛する自分を愛でる為
だけど
汚れた魂が
美しさの邪魔をする
内側から反映される黒い影
それも私自身だから



感謝

伝え難いこの気持ちを籠めて君に送る
真っ赤なスイートピーに白いリボンを結び付けた
物でしか表せない僕を許しておくれ
君の笑顔にありがとう



イベント

校庭の片隅に集まる3人を
2階の窓から眺める
今年もまたやってきた
「通算3つ目」
彼らが埋めたタイムカプセルを掘り返す
一年に一度の楽しみ



やわらかさ

青空に流れる雲のように
バスタブに注がれるお湯のように
真夏に吹く生温い風のように
子猫の細長いしっぽのように
微笑むあなたの優しさが好き



痛み

例えるなら割れたガラス
鋭利な欠片が次々と砕けていく
そして君達の体にも傷を残す
感覚が消える頃
再び新たなヒビが生まれる
その繰り返し



好き

一片
桜の花弁が舞い落ちる
水面に漂って
まとまって
沈んでいく
幾つもの花弁は
心の奥底で
今日も輝き続ける
明日もまた
新たな花弁を加える為に



今昔

「今」は短すぎる
一瞬にして「昔」に消えていく
進むことも戻ることも出来ないのに
「今を生きろ」などと
軽々しく言うのは何処の誰ですか?



渇き

足りない
まだ足りない
もっと
もっと沢山
僕に時間を下さい
全てを満たす為に
全てを潤す為に
ひび割れた大地に花を咲かせる為に
僕に愛を下さい



浪漫

彼女の甘いため息と
俺の乾いた笑みの
コラボレーション
「そんなに好きなら付き合えば?」
「ソレが出来ないから浪漫なの」
思わず納得する俺



季節

訪れる者と去っていく者
両者が出逢うのはその一瞬だけ
彼等の交代によりもたらされる感情は
人々の至福
巡り廻ってまた出逢う
風の吹くままに



別れ

あの言葉を聞くために出逢う訳じゃない
あの言葉を云うために出逢う訳じゃない
でも僕は大好きだ
あの瞬間が
あの言葉が
新たな出逢いを生むから





思いのままに生きること
それを望めば我が儘になる
我慢をすることが人生なら
私は人生を捨てよう
「誰も居ない世界に行きたい」
ソレが私の欲望



贈り物

真っ暗な中で
一人佇む僕の絶望を
見ましたか?
見上げれば輝く星が
儚い希望をくれる
この素敵な場所で
密かに囁く僕の言霊が
貴方への
唯一の贈物