GDGD企画「物書きさんに30のお題」



[06] ガラクタ







「そんなもの、何に使うんすか?リューさん」
「大多数にはガラクタに見えても、とーっても貴重なものだったりする可能性も否定はできないと思わない?」
 尤もらしい事を言うリューではあるが、彼の指先に摘ままれているのは「金属製の何か」であり、用途は完全に不明だ。
 リューの人差し指の第一間接程の大きさのそれは、一般的な花のモチーフをちぎって花びらを三枚だけ残したような形から、短すぎる筒のようなものが延びている。
「見方によってはゼンマイに見えなくもなくない?」
「ゼンマイ?あのくるくるしたやつっすか?」
「そうそう、くるくるするやつだよ」
 互いに別のものを思い浮かべながら、ユーヒは無意識に、リューは意図的に納得して頷き合う。
「それで、どうするんだい兄ちゃん?買うの?買わないの?」
 露店商が苛立たしげに割り込むと、振り向いた二人は一斉に口を開いた。しかしタッチの差でユーヒの声の方が早く出る。
「買うっす!」
「え?買うの?」
「何言ってるんですかリューさん。そんな貴重なものなら買わない理由はないじゃないっすか」
 どう見ても金属なのに植物のようだと言われ、頭のなかで何かを湾曲させたユーヒの輝く瞳に押されたリューは、否定を押し込めて売り子に問い掛けた。
「この値段で間違いないよね?それじゃあ一つ貰っていくよありがとうおにーさん」
 適当な器に山と盛られたガラクタの脇、提示された5Gをほいっと投げては有無も言わさず立ち去る。そんなリューにルンタルンタと続くユーヒまでもを引き留める事が出来ぬまま、交渉の機を逃した露店商はがっくりと頭を垂れた。

 数十分後。

 リューが購入したガラクタを手元で弄んでいると、隣を歩いていた筈のユーヒが後ろへと流れて行く。
 彼が足を止めたのは、先の露店からかなり先に進んだ場所にある、バザーの終点付近にあるこじんまりとした露店であった。
 古びた麻の敷物の上、並べられた商品には当たり前に統一感がなく、まるでフリーマーケットの縮図のようである。
 他から萎縮するようにして身を縮める店主はおろおろと、立ち止まったユーヒを見据えていた。
 不揃いのカラトラリー、毛糸のケープ、蔦で編んだリースに、木製のオルゴール…。他にも似たような種類の品々が並べられているが、ソフィアやクロバならまだしもユーヒのような青少年が気に入りそうな物は見当たらない。
 後ろから露店を覗き込んだリューが小首を傾げていると、ユーヒがすっと手を伸ばした。
「これ、下さいっ!」
 彼が指名したそれを見て、最初こそ驚いたリューも直ぐに意図を理解する。頷くと同時に、もしかしたら笑顔のような表情の一つでも浮かべたかもしれない。
 明るい二人の様子に戸惑っていた店主は、申し訳なさそうに言い訳をする。
「あの…並べておいて難ですが、このオルゴールには、ネジがないのです…」
 そう言って最後には俯いてしまう彼の前、リューはそっと例のガラクタを差し出した。すると店主である少年の表情が明るくなる。
「これは…このオルゴールの…」
 食い付く勢いで奪ってしまったガラクタを、ハッとして返却しようとする少年に、リューはゆっくりと首を振った。
「オルゴールはもう良いよ。でも代わりにこれを頂戴?」
 言いながらリューが手に取ったのは、白木で作られた5Gのボタン。
「そのネジと交換で」
 にこり、とまではいかないものの、リューにしては朗らかにも見えるその表情に、少年は泣き出しそうな顔で頷いた。
 満足そうにボタンを弄びながら踵を返すリューに、やはり満足そうなユーヒが続く。
「良い買い物したっすね」
「丁度鞄のボタンが無くなっちゃって、困ってた所なんだよね」
 互いに笑顔と無表情を竦め合い、二人はのんびりとバザーを後にした。














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製作:ぁさぎ
HP:ねこの缶づめ