GDGD企画「物書きさんに30のお題」



[03] ギブス








「困ったね」
 リューが呟く。
「困りましたね」
 クロバが呟く。
「誰か気付きませんかね?」
 ユーヒが呟く。
「一番気付いてくれそうなユーヒが、残念ながらここにいるからね」
「何とかクラウスさんと連絡が取れないでしょうか?確かそんな紋章がありませんでした?」
「あったはあったと思うっすが、今ここにはないですね」
「ソフィアの心配症が発動してくれればいいんだけど」
「まだお昼前ですからね…」
「うへえ…自分ら、夕方までこのままっすか?」
「下手したら夜までだよね」
「それまでに直ってくれたりはしないでしょうか?」
「そんな能力ありますかね?」
「ないんじゃないかな?あーあ。こんなことなら、糊でも持ってきてたら良かったよ」
「糊でくっつきますか?それなら鞄にお昼のおにぎりが…」
「それは普通に食べた方が良くないっすか?ってか食べたいっす…」
「そうだね。どのみち長丁場になりそうだし、賭けに出るには少し早いかな」
「しかし、この状況ですよ?」
「何とかなるっす…いや、するっす!」
「せめて座れたらね」
「すわ…るのは難しそうですね…」
「自分、腕が疲れてきたっす」
「ユーヒの身長じゃ少し厳しいね」
「やはり誰か一人、なんとか離れて人を呼びませんか?」
「いえ、これ、二人じゃ絶対無理だと思うっす」
「……」
「……」
「……」
「よし。暇だし、折角だから、誰が最初に駆けつけてくれるか、みんなで賭けようか」
「そうですね…では、私はスカイアさんで。なんだか飛んできてくれそうな気がします」
「自分は見ず知らずのおじいさんで。こう、都合良く通り掛かってくれないもんっすかね…」
「じゃ、おれは大穴狙っちゃおうかな」
「大穴?」
「誰っすか?」
「チャーリー」
「それはヒースさんと言うことですよね?」
「そうっす。ヒースさんが居なきゃ、チャーリーは動かないっすよ」
「それはそれ、これはこれだよ。とにかく、おれはチャーリーに一票」
「チャーリーさん…来てくださいますかね…?」
「チャーリーでも何でもいいんで、早く誰か来てほしいっすね…」
「因みに配当は今日の夕食のおかずね」
「夕食までに帰れるのであれば吝かではありません」
「うぐっ…おかずが減るのは寂しいっす…!おじいさん…見ず知らずのおじいさん…聞こえるっすか?聞こえたら今すぐこっちに来てほしいっす…!」
「あ。ユーヒずるーい。念波飛ばすのは反則だよ?頭の中に直接語りかけちゃ駄目」
「ユーヒさん、そんなことが出来るのですか?」
「出来たらとっくに誰かを呼び寄せてこの状況から脱出してるっす」
「ですよねー…」
「残念です」
「自分も凄く残念っす…。ってかリューさん、反則とか言わずにやるだけやってみましょうよ。もしかしたら念が通じるかもしれないっすよ?こう、テレパシー的な能力が開花して、まるっと解決しちゃうかも」
「でも、こんな円陣組んで念飛ばしたりしたら、何か別のもの飛んできちゃいそうな気がしない?」
「別の…なんですか?なんでしょう?」
「いいっすよもう。何でもいいから飛んできませんかね?ぱーっと助けてほしいっす」
「ってかいっそ離しちゃう?」
「離したりしたら、倒れてしまいますよ?」
「後から起こすのも、くっ付けるのも大変そうじゃないっすか?」
「そうかなぁ…正直、こんなことしてても無駄なんじゃないかって気がしてきたよ…凄く損した気分」
「まだそうと決まったわけでは…しかしリューさんの仰ることにも一理あります…」
「凹んだらお腹好いちゃいますよ?前向きにもう少し耐えてみませんか?折角ですし」
「そうだね。御利益あるかもしれないし。ただこれ、引き際が難しい案件だね」
「仰る通りです」
「とりあえずおにぎりがあるんで、おにぎりエネルギーが切れるまででどうっすか?」
「おにぎりかぁ…一つで一時間ってところかな」
「そでれは燃費が悪すぎませんか?」
「リューさん的打算を含んだ感じなんじゃないっすか?」
「まあ、そんな感じです。してクロバ、幾つ有るの?」
「10個です」
「…意外と多いっす」
「しかも特大じゃない?」
「はい、ソフィアさんががっつり握って下さいました」
「男の料理っす…」
「いっそ糊にも出来てしまいそうだね」
「先程から選択肢が同じところを巡りに巡っておりますが…」
「正直、どうすれば良いのか全くわからなくて混乱してきたっす」
「人間の知恵なんてそんなもんだぞと、誰かに教えられてる気分になるね」
「得に不測の事態に陥った時は、こうも弱いものなのですね」
「ヤバイっす…お二人が難しい方向に頭を働かせ始めたっすよ!」
「ユーヒに催眠術かけて寝かし付けようとしてる訳じゃないんだけどね。だって如何せん、他にやることもないから」
「動けないって辛いんですね…せめて本が読めれば…ああ、しかし手が塞がっていては本も読めません…!」
「落ち着いてください、頭のなかで、こう、読んでみたらどうっすか?」
「そうそう。クロバワールド発動、トラップカードオープン。パルプンテでミラクルを起こすーみたいな展開、期待」
「パルプンテ…パルプンテですか?なんだか果物が思い浮かびましたが、これで合ってますか?ああ、でも美味しくは無さそうです…」
「ちょ、リューさんが余計なこと言い始めるからクロバさんが変なテンションに…あーもー!誰か助けて下さいー!ご神木がピンチなんっすよぉおぉおお!」
 ユーヒの叫びが山間に響く。
 その後彼の雄叫びを聞き付けた村人達により、三人は事なきを得た。
 勿論、彼等が必死に支えていた村のご神木も。













TOP





製作:ぁさぎ
HP:ねこの缶づめ